ヒアリ騒動の陰に隠れて存在感のうすいマダニの被害

特定外来種のヒアリの日本上陸で、それでなくとも暑い今年の夏が、さらに暑苦しくなっています。
このヒアリ、日本に定着してしまうといろいろ大変なことになりそうなのは目に見えています。

そして、最悪の場合、刺傷事故による人の死亡も生じうることから、殺人アリなどとセンセーショナルに騒いでいる向きもあります。

しかし、その騒動のため、結果的に、現実に起こっている微小動物による危険な刺傷事故への注意がそらされてしまっている感もあります。
日本の野山にはマダニが普通におり、山歩き、やぶの草刈、農作業などをしているときに取りつかれ、吸血されることがあります。
マダニによる人の吸血被害はよくあることで、それ自体とくに珍しいことではありません。

しかし、このマダニ、人の血を吸う厄介な吸血性動物というだけでなく、時には危険な病気を感染させる病原体保有者であることが知られています。
マダニが、吸血時に人に伝染させる病気の一つに、日本紅斑熱と呼ばれる感染症があります。

この病気はリケッチア症の一つで、病原体のリケッチア(Rickettsia japonica)を保有するマダニに刺咬されることによって感染・発症します。
日本紅斑熱は比較的最近(1984年)発見された病気ですが、国立感染研究所(IASR2017年6月号)によると、発見以来患者数が増加してきており、2016年には全国で過去最多の276人にまで増えているとのことです。
またそれにともない、国内での感染地域も増加の一途をたどっているようです。

ちなみに、2007~2016年の期間では、全国での患者発生報告が1765例あり、そのなかには死亡報告例が16例もあります。
日本紅斑熱に感染すると、感染後2~8日で発熱や発疹が生じます。
最悪の場合、死亡することもあるわけですが、特効薬があるため、発症後の対応を間違えなければ、とくに怖れる病気ではないようです。

さて、アウトドア活動が盛んになる夏場には、マダニに刺される(寄生される)ことも多くなります。

それゆえ、いたずらに怖れる必要はないというものの、日本紅斑熱の感染などにも十分な注意が必要な筈なのですが、現在のヒアリ騒動に比べたら、あまりに無視されているようです。
家族や友人達と野山に出かける人は、この日本紅斑熱という病名ぐらい、頭の片隅にでも覚えておいてほしいものです。

そうすれば、心ならずもマダニに血を吸われ、万が一、発熱や発疹が生じた場合、身の安全のために適切に対処する-すぐ病院に行く-ことができるというものです。